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体験・遊び 文進堂 畑製筆所

3代目から4代目へ。今にいきる伝統工芸|文進堂 畑製筆所

文進堂 畑製筆所

広島県呉市川尻町原山1丁目5-35

江戸時代後期の職人の技を伝える「川尻筆」。獣毛を扱い練り混ぜという高度な技法によってつくられる、高水準の筆として伝統工芸品に認定されています。工業化が進む歴史の中で、「文進堂 畑製筆所」は70を超える工程を手作業で、職人一人による一貫製造でその技を受け継いできました。3代目から4代目に伝えられる文進堂の「羊毛筆」づくり、1本の筆に息づく時間の厚みを体験することができます。

文進堂 畑製筆所

 

筆職人が諦めた「羊毛筆」づくりに注目

 

羊毛とは、羊(ヒツジ)の毛と書くが、山羊(ヤギ)の毛だ。文進堂では、羊毛の中でも毛が細く、はり、照りも素晴らしい雄山羊の胸毛を使っている。その筆を見せていただくと1本1本の毛がとても細く、手に当てると柔らかさだけでなく程よくしなり跳ね返りがある。「毛がとても細くて墨含みがいいので粘りのあるいい字がかけるんですよ」と4代目の畑幸壯さんが教えてくれた。

この「羊毛筆」の筆づくりを確立したのが、幸壯さんの父、文進堂3代目の義幸さんだ。「(2代目の)親父を超えたい」「もっとええ筆をつくりたい」という思いから、当時は挑戦する職人が少なかった羊毛筆に注目。細い羊毛は扱いが難しく、職人の技術力が追い付かず品質がいいとはいえなかったそうだ。義幸さんは研究と工夫を重ね、現代の最高級羊毛筆の筆づくりを確立した。(もちろん剛亳筆の技術は身についている)

 

羊毛の最高峰、野生の雄山羊の胸毛を使用

 

文進堂の羊毛筆が最高級品質と評価される理由の一つは、主原料の羊毛の品質の高さだ。見せていただいた羊毛には、皮(皮膚)がついている。「この状態で熟成させることで雑味がなくなり、弾力、耐久性に優れた状態になります。これは50年以上の前の揚子江流域にいた野生の雄ヤギのものです」とのこと。

 

「古細微頂光鋒」と呼ばれる雄ヤギの胸毛だけを使用するそうで、1頭からとれる量はほんの少し、または山羊の状態が悪ければとれない。目の前にある両手でかかえるほどの羊毛が、およそ100頭分と聞いて驚いた。とても貴重なものであることが分かる。

 

羊毛はいまでも仕入れることができるが、地球環境の変化で品質は下がってきている。羊毛筆づくりにいち早く取り組んだ文進堂は、今では手に入れることが難しい、半世紀以上前のきれいな地球環境のもとで育った羊毛を熟成させ、原料として使用している。そうした羊毛を使って、毛1本1本が持つ特徴、長所や短所を把握し、数百パターンの毛の組み合わせ方を確立した。ほかではつくれない筆で生き残ってきた。

手渡された筆を手に当ててみる。しなやかな強さ、上品な輝き。美しい姿だ。「これは20年かけてつくった材料を集めた筆です」と聞いて、かける時間の長さと、その価値に驚いた。

 

筆づくりのそばで育ってきた4代目

 

4代目の幸壯さんが筆づくりの弟子入りをしたのは22歳のとき。それからは1日が筆一色になった。一人で最初から最後までつくる一貫製造のため、70を超える工程の一つひとつを極めて、それが当たり前にできるレベルが求められる。この修行には一般的には10年はかかるといわれているが、幸壯さんは驚くほどの速さでこれを習得した。その速さはぜひ直接聞いてほしい。幸壯さんは生まれたときから筆づくりのそばで育ってきた。家と工房のさかい目はなく、小さなころから「どっちがいい毛だと思う?」と羊毛の選び方(選毛眼)を遊び感覚で仕込まれてきた。

 

晴れた日の午前中、南向きで筆づくりは始まる

 

筆づくりは原毛の選別から始まる。細い毛1本1本の微妙な違いを見分けながら、特徴や使用目的ごとに分別する。最初の工程となる原毛の選別は、太さや長さ、見た目で分けるだけではない。発注者が欲しいと思っている筆の太さや長さ、書き心地、どんな線を出してどんな作品を作りたいかといった要望から設計図を頭の中に描き、そのために必要な毛を選び、分量を決める。長年の勘と経験がたよりだ。幸壯さんは「この作業が筆の品質を決めるともいえます。いい材料があるのですから、あとは私たち職人がそれをどう生かすかが問われています」を優しい表情の中に強い覚悟が見える。

その作業は晴れた日の午前中、南向きで行う。自然光のもとで羊毛のありのままを確かめて、品質を一定に保つ。70工程のどれも簡単なものはなく、1本の完成に2カ月はかかる。

 

できるまで終わらない、できるまでやる

 

毛の汚れをとり、くしを何度もかけて、ほかの毛とは違う動きをするむだ毛を取り除く。見た目だけでなく、くしをかけたときの感触や、真鍮の金板に羊毛をのせて板でたたいて毛先をそろえるときの音の変化など、感覚をフル活用して作業を続ける。

工程を進めるたびに、毛の状態を確かめる。むだ毛があると、かいたときに余計な線が出てしまったり、抜け毛が増えて筆の強度が保てなくなる。実際に半紙に当てたときのように筆先を押しあてて、跳ね返る具合を確かめる。その作業はむだ毛がなくなるまで続く。できるまでやる、それが文進堂の筆づくりだ。

 

幸壯さんが弟子入りをして父の義幸さんから教えられたことは、技術は身に着けた前提で、「筆を使う人の気持ちを考えてつくれ」ということ。どんな人が、どんな作品を、なんのために、何年使いたいと思っているのか。たった一人で全工程をする一貫製造だけに、どの場面も自分との闘い。一つの妥協はあとで必ず自分に返ってくる。

義幸さんは、「伝統を守っていくことは大変で常に職人としての姿勢を問われる。でもそこにやりがいある。妥協せずに続けてほしい」と話す。

 

筆が連れていってくれる感覚

 

筆づくりに定義はない。使い手がかきたい線を出せるかどうか、それがすべてだ。使い手に寄り添い、「筆が導いてくれる」、そんな感覚を持てる筆づくりを目指す。こんなに筆や書道家の近くにいながら、書道はしないという。その理由は「自分の腕が筆のできを勝手に解釈しないようにするためです。先生方の要望に忠実でありたい。それ以上のものを作りたいから」。職人のこだわりが見えた。

いい筆は育つ。いい羊毛筆で、いい墨が中にはいることで筆が育っていくそうだ。ただし、使い手が何時間もかけてお手入れが必要だ。丹念に洗い、残っている墨を口で吸いとるという書道家もいるそうだ。使い手よりも長生きする筆も多く、文進堂には後継者に託すために筆をきれいにしてほしい、太い筆を2本に分けてほしいといったオーダーも寄せられる。「いい筆は、手入れをきちんとすれば30、40年長くもつ。回転がよくないのは問題ですが」と笑う。

自社の名前を出せる直売りの割合を増やしたことで、「あの筆は文進堂さんの作品でしたか」と、関東の書道家や専門家や愛好家からの注文が入るようになった。あわせて、工房を見せてほしいという要望も。「川尻筆の認知を高めたい、書道文化を盛り上げたい。そして呉の観光に来ていただきたい」と体験教室にも積極的だ。歴史ある川尻筆、その中でも最高品質の羊毛筆づくりの姿勢を体験してみよう。1本の筆の背景にある時間の長さ、職人の技術に圧倒されるはずだ。

 

川尻筆づくり体験

内容 工房の見学、工程の体験(してみたい工程があれば事前に連絡を)

所要時間 1時間 体験料2万円(お土産にお客様に合う高級筆をご用意いたします。)

3週間前までに1~10人まで。要予約。

名称 文進堂 畑製筆所
お問合せ 0823-87-2154
営業時間 9:00~17:00
定休日 土曜・日曜・祝日・年末年始・お盆
駐車場 有(3台)
ウェブサイト https://bunshindou.com/
所在地 広島県呉市川尻町原山1丁目5-35
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