漁業の町、蒲刈の遊漁船観光

蒲刈水産物直売所は、瀬戸内海に浮かぶ芸予諸島のひとつ、上蒲刈島にある。島の北側を海沿いに走る県道を東に進むと、のぼりがはためく瓦屋根の建物　蒲刈水産物直売所「潮騒の館」が見えてくる。

瀬戸内の穏やかな海に囲まれた蒲刈地区では、以前から漁業が盛んで「イカかご漁」や「刺網漁」が行われてきた。いずれの漁法も大型漁船を使用することから観光客を乗せた遊漁船業も発展した。
この直売所では、コウイカは5月から6月、タコは8月から10月にかけて捕れるため、季節毎に遊漁体験が楽しめる。

 

リピーターも多い「遊漁体験」

船上では海風にあたり、波の音を聞きながらゆったりとした時間が味わえる。海の魅力にすっかり引き込まれ、毎年の行事としてこの体験に通うリピーターの方が多い。リピーターの方の中には、小学校時代から通い始めて社会人になってからもなお訪れていただける方や体験終了時に翌年の予約をして帰られる方など根強い人気のほどがうかがえる。

 

蒲刈水産物直売所で広報を担当されている沖本国男さんに、大切にしていることをうかがった。

「毎年来てくださるお客さんがいるのは、ここだけでしかできない体験とおもてなしを大切にしているからだと思います。」

そんなおもてなしは、体験ツアー最後の昼食でも垣間見ることができる。

遊漁体験を終えて戻ってこられるお客さんに合わせて、新鮮な魚やタコの食材を一番美味しい状態で提供できるように、天ぷらは揚げたてを出し、味噌汁の香りを楽しんでもらえるように味噌は直前に入れるなど、美味しく食べられる工夫をしている。参加者の満足度が高いのもうなずける、細やかな気配りがある。

また、沖本さんは、どのようにすれば喜んでもらえるかを常に考えている。

「リピーターが来てくれるということは、伝わる人にはきちんと伝わっていると実感しています。そんなときが、やっぱりうれしいですね。それが2回、3回と繋がっていくようにこれからも頑張ります。」

とうれしそうに抱負を語る。

 

 “遊漁体験”から“命の大切さ”を感じてほしい

子どもさんには遊漁体験を通して生き物に触れてほしいと熱く語る。

「タコやイカからは、本当に命を感じることができるんです。タコが引っ付いたり、イカが墨を吐いたりするのを見ると、『生きてる』って自分たち漁師でも感じますよ。だからこそ子どもさんには、五感で体験して帰ってほしいんです。見るだけではなくて、網からはずしたり、生きたものを実際に触ったりして、テレビでは味わえないリアルをぜひ体験してほしいです。」

 

確かに昔に比べて、自然と触れあう機会は少なくなっている。インターネットやテレビなどで情報は手に入るが、五感を使って体験できる環境は減ってきている。そんな子どもたちが実際に足を運んで、生きものの迫力や命の大切さを感じることができる機会は、そんな現代だからこそ重要なのかもしれない。

 

やりがいを感じるのはお客さんの笑顔

生まれも育ちも蒲刈の沖本さん。地元の歴史や、土地のことを語るときにはとてもにこやかで、地元愛が伝わってくる。そんな沖本さんのやりがいは、やはりお客さんの笑顔だそうだ。

「遊漁船で、お客さんが魚を捕ったときに一緒になって喜んだり、下船後の食事がお客さんから『おいしい！』とおっしゃっていただいた時、この仕事をしていて良かったと喜びを感じますね」

お客さんが蒲刈での体験に満足する姿が、この土地で生まれ育った沖本さんにとっては大きな喜びだ。

 

体験型遊漁船について

遊漁体験は、午前10時から約1時間で事前に準備してある仕掛けを回収するタコの壺あげを体験する。救命胴衣はすべて現地にあるので、準備する必要はない。体験後には、岸に戻ってタコの天ぷらや刺身、鯛めし、魚のだしのきいた味噌汁などが味わえる（季節により内容が異なる）。

コロナ対策としては、船内及び施設内の消毒・喚起とスタッフの体調管理を徹底している。

蒲刈の豊かな自然に囲まれての体験は、日頃の忙しさを忘れさせる、楽しい思い出になるはずだ。予約は希望日の1～2週間前までにお問い合わせを。