手書きの矢印に案内されて進むと、目の前はもう海。そばに、B＆G海洋センターの建物がある。

 

早速、ライフジャケットを身に着けて、インストラクターからパドル（水をかく櫂）の扱い方を教わる。ガイドが付いてくれるといっても、海の上でシーカヤックを操るのは自分一人。行きたい方向に進めるだろうか、ひっくり返ったりしないだろうかという不安があるので、真剣に耳を傾ける。

 

準備体操をして砂浜へ。体重のかけかたを教えてもらいながらシーカヤックに乗り込むと、思いほか安定していてひっくり返ることはなかった。

 

砂浜から押し出してもらう。ザザッと砂浜にこすれる音がした後、ふっと抵抗がなくなった。まだ浅いが海の上、一人で浮いている。恐る恐るパドルを前に伸ばして水をかくと、すーと静かに進んだ。右左にリズムよく動かすと、シーカヤックがぐいぐいと進む。動かすと進むという当たり前の実感が久し振りで、自分の力で生きている充実感に満たされていく。

 

林さんは、サップ（スタンドアップパドルの略）で現れた。サーフボードの上に立ち、１本のパドルで進むスポーツだ。シーカヤックよりも、より海上を歩いている感覚になれるはず。初心者でも初回で乗れるようになるとのことなので、いつかチャレンジしてみたい。目的地の砂浜が近づいてきた。

 

「象がいるのが分かりますか？」。砂浜の方に目をやると、確かに象の長い鼻のように見える大きな岩があった。鼻の下を人がくぐれるほどの大きさだ。満潮時には鼻の下をカヌーでくぐることができるそうだ。カップルでくぐると、幸運があるとか、ないとか。岩の表面のでこぼこで、耳や目があるのも見えてきた。この時は干潮で、砂浜に降りて象の鼻に近づいて触ることができた。驚いたのは、このあたりの水の透明度。底まで見える。夏場はライフジャケットを身に着けたまま、泳いだり、象岩から飛びこんだりして遊ぶそうだ。
「そろそろ出発します」という声でシーカヤックに再び乗り込む。海を見ると、水平線の上に天使のはしごが見えた。波のない穏やかな海に、雲の切れ目から光が漏れて、光の柱となって海に何本も落ちていた。

 

美しい景色に漕ぎ出して、目を閉じてみる。近くにいる仲間が水をかきわける音だけが聞こえる。パドルを離さないように注意しながら、体中の力を一つひとつ抜いていく。首や肩、背中、太ももなどに力が入っていたことに気づく。まるで無重力のような、プールで膝を抱えて浮かび上がる、だるま浮きをしているような心地よさに包まれた。
「自然の中に20分いると、ストレスが軽減されるそうです。私は毎日、海ですから！」と言う林さんの日に焼けた笑顔を見て、自然に身を置く時間を持とうとしみじみと感じた。

 

シーカヤックに乗っていると、水面がとても近い。海の上でのバランスのとり方に慣れてきたので、少しかがんで海をのぞき込んでみた。泳ぎ回る小魚が見える。「ここは透明度が高いんですよ。沖縄気分も楽しめますよ」とのことだ。

 

気が付くともう1時間。出発した砂浜を目指す。海から見ると、周囲に豊かな自然があったことに気が付く。春は山桜、秋は紅葉が美しいそうで、海から見る景色は普段見ている景色と全くの別物だそうだ。林さんが表現する「日常の反対側」をもっと見てみたくなった。
シーカヤックの体験は午前と午後、夕方から出発するサンセットの部がある。サンセット部は海の上で夕日が落ちるまで見ることもできるそうだ。季節によって開催時間が異なるので問い合わせを。

 

林さんは倉橋高校カヌー部出身で、まるでドラマ「スクールウオーズ」のような熱血指導を受けたそうだ。厳しい練習に反抗したくなったときも、大きな自然の前に心が穏やかになり疲れやストレスがリセットされた。そして国体で優勝できた。「海は自分を成長させてくれた場所。そんな海の魅力を伝えたいんです」と20年前、シーカヤックの指導を、４年前からサップ指導も始めた。ＳＮＳでハロウイーン仮装をしてサップに乗る姿や、海の上を飛び跳ねているように見えるフォイルサーフィンを披露し、海の楽しみ方を発信している。
海の上に一人、上半身は空の中。地上では体験できない解放感と、自分の力で動いている充実感。「海の魅力は言葉では伝えきれない。まずは体験してほしい」。林さんの言う通りだ。

 

シーカヤック体験

開催期間　４月から１１月末まで。※冬場も要相談

開催時間　午前の部１０：００～１２：００
午後の部１４：００～１６：００
サンセットの部　４～９月　１７：００～１９：００
１０～１１月　１６：００～１８：００
※申し込みは希望日の前日１２：００までに。各ツアー開催の１５分前までに集合

料金　一般　４０００円、中学生以下　３０００円
※輝きの館宿泊客は１０００円引き